10月のハーグ

ハーグ便り、最後に投稿してから夏が過ぎ、秋になってしました。

コロナ禍で書くことがあまりなかった。のではなく、夏の間、忙しすぎました。その忙しさは、オランダ生活史上最大でした。

企業の統合レポートやアニュアルレポート制作の仕事を東京の制作会社からリモートで受けているのですが、コロナで売り上げ減を恐れた制作会社さんが、それでなくても忙しいのに今まで以上に仕事を受注して、その影響が私にも及んだのでした。6月にロックダウンが解除され、やれ海だ、バカンスだと楽しそうに過ごしているオランダ人を後目にパソコンにはりつく日々は、春を家でやむなく過ごし、夜10時まで明るい夏の完全無駄遣いで恨めしく思いましたが、こんな時でも怒涛のように仕事がくるのはありがたく、仕事も夜ごはんも終えてもまだ明るい夜散歩を楽しむことで自分を慰めていました。

 

またもやロックダウン
6月まで毎日更新されていた陽性反応者、入院者、死亡者の報告も週一になり、7月は陽性反応者一日平均40人前後とロックダウンの効果も抜群。8月は一日平均80人とちょっと増えているけど大丈夫かなといったところだったのですが、9月に入ると雲行きが怪しくなってきました。9月1日の陽性反応者の数は3,597人でしたが、29日の発表では19,326人。28(日間)で割ると、一日平均561人です。

事態を重くみた政府は9月末、屋内施設やレストランは最大30人まで、家に呼ぶ人は最大3人まで、レストランの営業は夜10時までなどの新しい規制を発表。友人が勤める会社も週1~2回の勤務に切り替わりました。それでも勢いはおさまらず、10月に入ると、10月1日3,293人、10月7日4,517人、10月10日5,959人。この数字は累積ではありません。その日の陽性反応者の数です。そして、13日、ついにロックダウンが政府より発表されました。前回がインテリジェントロックダウン(intelligente lockdown)で、今回は部分的ロックダウン(gedeetlelijke lockdown)。飲食店は4週間休業、スポーツや試合などは一部禁止、夜8時からのアルコール販売禁止などが課されます。

前回は策を示すからあとは賢く立ち回りなさいを意味するインテリジェント(規則を破る馬鹿者には罰金という意味も💦)、今回は飲食店もテイクアウトOK、普通のショップや学校もOKということで部分的という言葉が使われました。ロックダウンのもつ衝撃を少しでも和らげようという意図があるのかもしれません。

私は在宅で仕事しているので、前回も今回も大きな影響は受けませんが、散歩の後や友人と集えるカフェが当分ないのはつらいなぁ。それに、前回の約12週のロックダウンで打撃をこうむった飲食店、大丈夫なんだろうか。6月に解除された後も、Te huur(賃借人募集)の張り紙がうら寂しく貼られた店が増えたような気がしただけに、本当に心配になります。

 

まるで前夜祭
さて、当日の14日。午後10時から部分的ロックダウンが始まります。いつものように家で働きながら、そろそろ晩御飯メニューを考えなくちゃなーと思っていた午後3時頃、ツレのぽーる丼から電話がありました。

「今日の夜、外にごはん食べに行こうよ!」

え、感染者一日6,000人なんですけど。

あまり外食したがらない人からロックダウン当日にお誘い。しかも店を選び、予約まで入れる手際のよさ。ロックダウンの意味、分かってるよね? 大人しく、静かに、外出を控えて。だよね?

「昨日と今日で何か変わる? しばらく外食できないんだよ!!」

そりゃごもっとも。いつも行く半テイクアウェイ的な食堂風情とは違って、予約してくれたレストランはとってもシック。アラカルトはなく、お店にあるもので料理するSocial Dealという名のプリフィックスメニューだけで、フェースシールドをつけたスタッフさんから「このメニュー、もうなくなっちゃったの。この料理はあと1品だけ残っています」などと、この時期ならではの説明がつきます。そんな、そんな、ステキな雰囲気の中でおいしい食事が楽しめるだけで、もう満足です。

同じように考える人はいるようで、夜7時頃にはレストランは満席になりました。それにスタッフやお客さんの間に妙な高揚感と連帯感が漂っています。この雰囲気、何かを思い出すなあ。なんだっけ。

「うちを選んで、来てくれて本当にありがとう。また会えるのを楽しみにしています」

スタッフさんの極上スマイルに見送られて店を出ると、ズンズンとお腹に響く音楽が聞こえてきます。カーラジオを大音響でかけているのかしらと音のする方に行ってみると、広場に面したカフェが大混雑、ハウスミュージックでバカ騒ぎ。わーなんだ、これ?! 感染者一日6,000人だよね??

その様子を報じたビデオクリップがこちら

お店で感じた雰囲気が何だったか、その時わかりました。「お祭り」。何に盛り上がっているのか、何で盛り上がっているのか。繰り返しますが、感染者が一日6,000人でています。オランダに住む知り合いから近くのパブも盛り上がっていた情報も入り、ハーグのカフェはあまりにもひどいということでテレビのニュースにもなりましたが、お祭りはオランダ全国あちこちで開かれていた模様です。

 

私は私の権利を主張する
一言でいえば“不謹慎”、”自分勝手”。医療第一線で働く人からすれば顰蹙の何物でもないのですが、周りのオランダ人、テレビのコメンテーターなどの反応は「アホちゃうか」。あきれつつも見放さず、一定の理解も示す関西的な「アホちゃうか」です。

昨晩の異様な盛り上がりの素は何なのか、ずーっと考え、ひとつの仮説を思いつきました。

オランダの人たちは、自由(というか個人の権利)が侵される事態に直面すると、即座に「私がどう振舞おうが自由」な個人の権利主張を作動させてしまうのではないかと。

知り合いのオランダ人とPCR検査の話をしたとき、彼が真っ先に言ったのは「僕には拒否する権利がある」(そこですか)

現在、マスク着用を強制すると「なんでしなくちゃいけない?」(え、なんでって聞く?)

普段は超合理的に物事を考えるのに、感染防止から導かれる合理的な振る舞いは通用しない。少しでも強制の香りがすると即座に条件反射してしまうのでしょうか。もちろん同調圧力は、宇宙空間の重力です。まるっきり効きません。圧力かけようもんならバズーカ砲をぶっぱなし、木っ端みじんに打ち砕きます。「みんなと同じ」を是とする国で育った自分は、この先何十年オランダで住んだとしても、このメガトン級の権利主張を身に着けることはできないでしょう。

会見通り飲食店は休業となりました。が、街はそれなりに人出があり、4月の息を潜めるような雰囲気はありません。変わったことといえば、マスク着用率が1%から一気に20%くらいにあがったことでしょうか。スーパーでもマスク姿が目立つようになりました。現在、マスクは着用を義務化する法整備をしているそうです。オランダ人のマスクのつけなさっぷりは隣国からも顰蹙をかっているようですが、法整備でもいない限り、とにかく、なんでか、どうしても、したくない人はしません。万能ではないけれど、有効なはずなのに、謎です。

もうちょっと深刻に捉えたら?と眉をひそめることもできるし、あなたがどう暮らそうがそれはあなたの自由よねと理解を示すこともできる。どこからが顰蹙でどこからが理解なのか、その境界線がさっぱりわからないので、判断は棚に上げることにしています。そんな私でもひとつはっきりと言えるのは、委縮するような雰囲気や圧力がないのは、ロックダウン中でもずいぶん暮らしやすい、ということです。

 

 

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