ライデンのシーボルトハウスを訪ねる

こんにちは。広報担当の水迫です。現在、オランダにおります。

この夏、FANでは千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館で開催されている企画展示「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」を見学するイベントを行いました。今回のシーボルトの展示はミュンヘン五大陸博物館所蔵のものだそうです。

イベントに参加できず残念に思っていたところ、そうだ、ライデンにシーボルトハウスがあるじゃないかと思い出し、私は佐倉市の代わりにライデンに向かうことにしました。

 

ライデン中央駅から徒歩で10分ほど。道の途中でGalgewaterという運河を渡ります。この運河からは2つの風車が見えます。ひとつはレンブラントがかつて住んでいた家の近くにあるDe Put、ライデンのシンボルでもあるde Valkです。de Valkは1785年に建てられた風車で博物館になっています。De Putはレンブラントが住んでいた頃のたたずまいを再現するべく、橋とともに作られた風車です。

 

シーボルトハウスは、運河沿いのRapenburgという通りにあります。運河のたもとには、1914~18年にライデン市長の職にあり、第一次世界大戦の際に食糧供給に貢献したNicolaas Charles de Gijselaarを記念したモニュメントが飾られています。1920年代に作られたそうです。

 

シーボルトハウスは名前の通り、かつてシーボルトが住んでいた家です。かつては四軒続きの家だったそうですが、16世紀のはじめには一つの建物となったそうです。以来、国指定の文化財になるまでにシーボルトを含む8名の名士がここに住み、改装を重ねたそうです。最後に日本人女性建築家が改装を手掛け、2005年にシーボルトハウスとしてオープンしました。

 

今回は前もって連絡を入れて、シーボルトハウスにお勤めのフォラー邦子さんに館内をご案内していただけることになりました。展示物を見学する前に見せていただいたのが、地下1階のお部屋。ワークショップなどで使うこともあるそうですが、この建物のオリジナルの姿が見られる唯一の場所だそうです。

 

受付の横にある部屋では、シーボルトを紹介する映像が流れています。映像もきれいですし、日本語の字幕付きなので、予習に1回、見識を深めるためにも復習に1回、閲覧することをおススメします。

 

展示室は、パノラマ室、植物相と動物相の部屋、地図の部屋の3室のほか、日本にちなんだ企画展示室があります。残念ながら、地図の部屋は将来なくなるそうです。まず、パノラマ室を訪ねてみました。

パノラマ室には、植物、生活用品、武器、着物、鉱物などシーボルトが収集した膨大な品々が天井まで届くガラスケースに展示されています。「ありとあらゆる日本の物を収集せよ」とオランダ政府から特命を受けたシーボルト。”貿易”の観点から収集した品々からシーボルトのあくなき情熱と同時に緻密な完璧主義を垣間見る思いでした。世界の情報を瞬時に取得できる現代ならまだしも、彼が日本に赴任したのは1800年代中頃の19世紀です。医師という立場で培ったネットワークが有効に働いたとは思いますが、手さぐりで他国のことを調べざるを得なかった時代に、何を収集すべきかを判別できた能力、そして、ここまでぬかりなく様々な種類の品々を集めた情熱に圧倒されます。

「展示品の特徴、すなわちシーボルトの収集の仕方は、完成品だけではなく、その品がどうやって作られたかも併せて集めたことです」とフォラー邦子さん。

着物だったら和布の見本帳、和布の糸まで集め、瓦なら瓦を焼く窯のミニチュアを作らせています。

また実用品なら未使用の新品が揃っているのも特徴だそうです。日本の博物館には昔の人が”使用”していた物が展示されています。下駄ならかかとがすり減っていたりするわけですが、ここの展示物は実用を目的としていたわけではないので、すべてが新品です。19世紀の未使用品がここまで揃っているのは世界でも稀ではないでしょうか。

下駄も新品です。写真(右)の中央にある女性が描かれた品は歯磨き粉のパッケージです。

経絡を記した人体模型や、位牌(神仏混合に非常に興味を示したそう)、楽器、植物の標本、大工道具、和綴じの本、浮世絵、貨幣……。じっくり展示物を見学しましょう。これらの品々はシーボルト自身が集めたもののほか、謹呈されたものも多いそうです。医学を教えるお礼として贈られたそうですが、日本人のお礼をカタチで表したいという気持ちも収集に大いに役立ったのではないかなと思います(これは私の勝手な推測です)。

 

フォラー邦子さんからご説明をいただきながら展示物を見学していた時、予想していなかった感動をおぼえました。それは、展示物の美しさです。高度成長期を終え、日本のモノづくり・技術の復興が叫ばれて久しいですが、その源流を見る思いでした。細やかに、精密に作られた品々は、その美しさをたたずまいに漂わせます。昔の人々のモノに対する愛情、モノを丁寧に扱う暮らしぶりさえ伝わってくるようでした。忘れさられていた、あるいは、今必死に掘り起こそうとしている日本がそこにあるかのようで、よく言われることですが、他の国からきた人のほうが、その国の美しさ・よさをわかるのかもしれませんね。

 

また、技術伝承が絶え、当時の現物が残っていないとされていた竹細工のひとつである水口細工で作られた籠がここに展示されています。

 

植物相と動物相の部屋へ移動します。ここでは植物、生物の標本が展示されています。

オランダにアジサイを持ち込んだというシーボルトらしい植物の標本の他、シーボルトが連れて帰った猿や犬も展示されています。猿は近辺で騒ぎを起こし、たびたび新聞にも登場したそうです。

カメラがなかった時代、はく製にするといずれ色が褪せるのがわかっているので、取得したら即座に写生させていたそうです。

 

地図の部屋では、持ち出しを禁止されていた地図などが棚に所蔵されており、棚を引き出しながら閲覧することができます。残念ながら、この展示室は将来なくなるそうです。下の写真の左は瀬戸内海の海岸線、右は江戸大絵図です。

 

フォラー邦子さんが、展示物のなかのリトグラフの絵を説明してくれました。大井川を渡る光景が描かれています。東海道最大の難所といわれた大井川越え。橋のみならず、船による渡し舟も禁止されていたので、渡しが職業として成り立っていました。入れ墨だらけの渡守に、昔の人々の荒々しさとたくましさ、大井川は今からは想像もできない豊かな水量をたたえていたことに新鮮な驚きをおぼえました。

 

館内は展示室の他、小さいですがシーボルトの胸像が置いてある中庭もあります。シーボルトが持ち帰った植物が今も元気に生きています。もっと植物について知りたい人は、ライデンにあるライデン大学付属植物園に行ってみるといいでしょう。

 

今回の訪問で強く印象に残ったのが、川原慶賀の絵です。絵画にも歴史にも詳しくないのですが、正確かつ丁寧な描き方に、才能のみならず、誠実でまじめな人柄がしのばれるようでした。また、その才能を認めてさまざまな物を描かせたシーボルトとの絆も強かったのではないかと思われました。言葉もわからない異国の人から「今回はこれ、次にこれ」と次々と注文されて、自身の絵心とともに、その期待に応えたいと心を尽くして描いたのではないでしょうか。また、川原慶賀は、植物や生物のみならず、人物や街の風景などいろいろな絵を描き残しています。才能が花開くきっかけはシーボルトの注文(厳しかったのかな)だったと思いますが、水を吸い込むスポンジのように色んなことを吸収できる柔軟な心の持ち主だったのかなと勝手に想像してみました。

パノラマ室に未完成と思われる川原慶賀の絵があります。オランダ商館長の江戸参府にシーボルトとともに同行した川原慶賀は、富士山が見えたところで、「2分で描け」と注文を受けたそうです。「そんな無茶な…」とは多分思わなかったはずで、その注文に最大限に応えようと、目の前にみえる風景を瞬時に切り取り、ものすごい速さで筆を運んだのだと思います。

 

今回の訪問では、歴史の貴重な資料としてだけではなく、フォラー邦子さんの興味深い説明によって、シーボルトと彼を取り巻く人々の息遣い、その時代のかおりさえも感じとれたような気がしました。ヒト、モノが交流することで化学反応が起こり、時代は動いていくということを改めて実感しました。

 

シーボルトハウス
SieboldHuis
住所:Rapenburg 19, 2311 GE Leiden, Netherlands
Tel: +31-(0)71-5125539
Fax: +31-(0)71-5128063
開館時間:火~日曜10:00~17:00
休館日:毎週月曜、1月1日、4月26日、10月3日、12月25日